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『緋牡丹博徒 お竜参上』
The Valiant Red PeonyGamble Oryu’s Return
固定ローアングル 長回しスタイルの到達点。 世界映画史の奇跡の7分間に 息を潜めよ

『緋牡丹博徒 お竜参上』

監 督:加藤泰

出 演:藤純子、若山富三郎、菅原文太、嵐寛寿郎


制作国:日本

放送年:1970

時 間:100min

配給: 東映

あらすじ

時は明治末期。数年前に渡世の成行きで、ニセお竜ことお時を死に追いやったお竜は、お時の盲目の娘・お君に目の手術を受けさせるが離散。以来その身を案じ、お君を探して旅を続けるが、道中出会った渡世人・青山常次郎から、彼女に似た娘が浅草にいると聞いて東京へ。お竜は常次郎の紹介により、浅草の鉄砲久一家に草鞋を脱ぐ。やがてスリをしていたお君と再会したお竜は彼女を更正させるべく、鉄砲久にお君を養女に迎え入れてもらう。そんな折、鉄砲久を妬む鮫州政一家が、縄張りを奪おうと画策。鉄砲久に力を貸すお竜は、鮫洲政一家に命を狙われるが、そこへお竜の度胸に惚れ込んだ渡世人・常次郎が現れ助勢。お竜とともに鮫州政一家に殴り込む!

みどころ

シリーズ第3作『花札勝負』で母を亡くした盲目の少女お君。6作目となる本作では、行く末を案じ旅するお竜と手のひらの記憶を頼りに邂逅を果たす。『花札勝負』と対照的に、導入する物語を抑え気味にすることで、芝居の陰影をだすことを意図したようだ。マガジン一杯、7分間ワンカット長廻しした、お君とお竜の出会いは奇跡のカットといえよう。画面のタテヨコ一杯に配置された人物がひとつの調和の中でエモーションを奏でるローアングル長回し固定は世界映画史の到達点だ。が、本作はスタイルのみで語られるものではない。名高い菅原文太との雪の今戸橋の別れに収斂する記憶と視線のドラマは、凝視する自分を覗いてしまうような底恐ろしさがある。

監督:加藤泰

伊藤大輔作品など無声映画に夢中になり、叔父の監督・山中貞男を 頼り映画界に入る。51年に監督デビュー、東映を中心に時代劇・仁侠映画を監督する。60年代以降は各社で大型の作品にジャンルを越えて挑み、固定・ロー アングル・長廻しの手法と映画原初の力に溢れた活劇で評価を確立した。社会の枠外にいる男女の情熱と生きざまを慈愛と憤怒で物語り、ワイド画面の奥までに活きた人間が横溢する画面を作る凝視の演出力は世界映画史で異彩を放つ。98年のロカルノ映画祭での特集上映は、シネフィルを驚愕させる事件となった。ドメスティックな物語を普遍的な活劇として描いた手腕を世界がどう捉えるか、意義深い上映機会となる。