

『明治俠客伝 三代目襲名』
監 督:加藤泰
出 演:鶴田浩二、藤純子、津川雅彦、藤山寛美
制作国:日本
放送年:1965
時 間:90min
配給: 東映
あらすじ
野村組の建材を請け負う木屋辰二代目の江本親分が暴漢に襲われる。これは木屋辰を目の仇にする同業者である星野の企みだった。これを手始めに次々と嫌がらせを重ねられるが、二代目の言葉通り任侠の耐える道を選ぶ浅次郎。二代目が亡くなり、三代目を襲名することとなる浅次郎だが、その本心は二代目の実子である春夫を堅気にする目論見があった。三代目襲名式を無事終え、星野組に出向き、堅気になった春夫から手を引くよう仁義を切る浅次郎。そして、初の大仕事で大阪を不在にしている間に、春夫らが星野組の手にかかり、命を落とすこととなってしまう。急ぎ帰阪した浅次郎は、二代目から授かったドスを握り締め、単身星野組へと躍り込むのだった…。
みどころ
1965年、この頃からの加藤泰作品には格調が感じられるようになってくる。大怪我を負い布団に寝込んだ嵐寛寿郎扮する親分が刺客の首実験に立ち上がる唐突さ素早さ、窓外を通る船や機関車のタイミングの完璧さ、通夜の席で実子の津川雅彦を打擲する鶴田浩二のアクションの思いがけなさ、川べりに佇む藤純子と鶴田浩二の白桃のラブシーンの比類ない美しさ・・・。いずれもがこの悲劇の構造のなかで活劇の鼓動を刻み、波乱の予感を震わせているのだ。こうした奇跡の映画体験には理屈も言葉も不要だ。暗闇に身をゆだねてスクリーンを見つめるしか選択肢はない。

監督:加藤泰
伊藤大輔作品など無声映画に夢中になり、叔父の監督・山中貞男を 頼り映画界に入る。51年に監督デビュー、東映を中心に時代劇・仁侠映画を監督する。60年代以降は各社で大型の作品にジャンルを越えて挑み、固定・ロー アングル・長廻しの手法と映画原初の力に溢れた活劇で評価を確立した。社会の枠外にいる男女の情熱と生きざまを慈愛と憤怒で物語り、ワイド画面の奥までに活きた人間が横溢する画面を作る凝視の演出力は世界映画史で異彩を放つ。98年のロカルノ映画祭での特集上映は、シネフィルを驚愕させる事件となった。ドメスティックな物語を普遍的な活劇として描いた手腕を世界がどう捉えるか、意義深い上映機会となる。