10月29日、京都文化博物館において映画『密使と番人』上映後、監督の三宅唱さんによるトークショーが行われました。
聞き手は、映画評論家のミルクマン斉藤さんです。

斉藤:まずこの映画で印象的なのは雪ですね。とにかく質量を感じさせる。監督は北海道出身なんですよね? 

三宅:そうです。雪といえば、ロマンチックなイメージでしょうが、僕にとっては過酷な雪かきのイメージです。

斉藤:大阪のCO2の助成を受けて北海道で撮られた『やくたたず』(’10)もそうでしたが、監督の作品では確かにロマンティシズムとは無縁の、まさに「物質」として雪が扱われていますね。それにしても、今回の『密使と番人』はストーリーというものが極端に削ぎ落とされています。もちろん物語はあるんだけど最初の字幕で示されるのがほとんど全て。人物の行動にも「なぜそうなったか」の説明は排除されてるし。追手の渋川清彦さんがなぜ倒れたのかもよく判らない。

三宅:このシーンで重要だったのは、森岡龍くん演じる道庵のリアクションだと考えていました。「いったいなにがおきたんだ?」というような、不条理としかいいようのない事態ってたくさん起こりますよね。そういう、わからなさに彼がどう反応するかを、みたかったのです。

斉藤:観客にとっても、判らないということが作品を鑑賞する上での妨げにはならないですね。音楽はヒップホップのトラックで、これがまた合ってるんですよね。

三宅:期待をはるかに超えて、映画に寄り添ってくれました。OMSBとHi’Specはふたりとも、映画音楽ははじめてでしたが、さすがだなと感動しました。

斉藤:監督のドキュメンタリ『THE COCKPIT』(‘14)の被写体にされていたアーティストですが、硬質だけれど無機質ではない音ですね。でもその音楽と同等に重要性を持ってるのが現実音。雪を踏みしめる音、枝をかき分ける音、焚火の音、それらの音が映画の世界観を作っているといっていい。

三宅:良かったです。そういう自然を感じていただきたかったので。

斉藤:それに逆光をまともに撮ったからこそ生まれる、レンズのフレアが美しい。焚火の炎もそうです。

三宅:道庵が薪に火をつけるシーンは、陽が沈んできているという状況を一目で感じるために、日没のタイミングを狙う必要がありました。編集でカットを割っていますが、撮影現場では薪を集めてから火をつけるまでの時間をワンカットで撮影しました。演じる役者とスタッフが一緒になって、主人公が生きている時間をダイレクトに体感したいと思って、そうしました。



斉藤:この60分っていう作品の長さはどこから?

三宅:時代劇専門チャンネル、日本映画専門チャンネルからのオファーです。30~60分で、というお話でした。
時代劇の依頼が来るとは思ってもみなかったことで、なんのアイデアもわかないまま打ち合わせにでかけたのですが、プロデューサーが「普通とは違うものを作りたい」とおっしゃってくださったことで、自由に発想できました。
最初は「百姓が遭難して、ふんどし一丁で無人島を助けを待つ」という話を考えました。
その後舞台は海から山に変更しましたが、とにかく自然のなかの人間を撮るということは一貫していました。

斉藤:長野県の諏訪で撮影されたんですよね。

三宅:そうです。もともと好きな地域だったのですが、予想以上に素晴らしいロケーションでした。余計なものがない。もちろん、役者にとって寒さはとても堪えたと思うのですが。

斉藤:余計なものがない故に、言ってしまえば時代劇でなくてもいいようなお話ではあります(笑)。江戸時代も今も山の光景にはそれほど変わりがないだろうし、逃げる密使と追う番人が、例えばスパイと警察とかでも成り立つような。

三宅:いまぼくらが生きている現代と断絶した世界ではなくて、なにか繋がりを感じられるような時代状況を捉えようとしていました。また、自然の中での皮膚感覚は、いつの時代も大きく変わらないはずなので、それは大事にしました。山の気持ち良さとか、こわさとか。

斉藤:あてどない迷宮感というか、自然そのものは広大なのに一種の閉鎖性さえ感じさせます。
ところで物語は一応、シーボルト事件のように密使が地図を渡すというミッションを成し遂げて終わりますが、あの後、森岡龍くんはどこへ? 

三宅: 大きなことを成し遂げたけど、彼の人生はその後も続きます。届けたところで終わるのではなくて、きた道をまた同じように歩いて、江戸まで戻らなければならない。だから、達成感と同時に、徒労感も撮ることが、あたりまえの感覚かなと考えていました。

斉藤:その辛い道中を象徴するように、草鞋にこだわってられるのが面白いですね。行き倒れている女から草鞋を拝借したりして、何足も穿き潰しているのが判るし、地図を渡したあともまた切れる。

三宅:最後に草鞋が切れるところはアクシデントでした。面白いのでそのままOKにしました。

斉藤:偶然とは思えない、いいラストになりましたね(笑)。それと、たぶんこれは偶然ではないんだろうけど、深い雪の中を引き返そうとして持ってるモノをぼとぼと落としてしまうシーン、最高です(笑)。まさに物質的な雪の重さを感じさせて。

三宅:ありがとうございます。雪に足跡がついてしまうので、同じことを2度するのが難しい状況だったのですが、森岡くんやスタッフの工夫のおかげでうまくいったと思います。

斉藤:森岡さんとはこれが初顔合わせだと思いますが、前から知り合いらしいですね? 彼は映画監督もしていますが。

三宅:そうです、友達です。彼の撮った映画も好きです。

斉藤:追手役の渋川清彦さんは『playback』(’12)に続く出演ですが、闘争劇に巻き込まれる夫婦役・石橋静河さんと井之脇海さんも初めてですね。とりわけ石橋さんが素晴らしくて、ときおり見せる目が彼女のお母さんの原田美枝子さんの目そのままでドキリとさせる。監督の次回作『きみの鳥はうたえる』にも出てらっしゃるみたいで。

三宅:『きみの鳥はうたえる』は恋愛映画で、柄本佑さん、染谷将太さん、石橋静河さんが主人公の男女3人を演じてくださいました。佐藤泰志さんの小説が原作です。

斉藤:監督は、今は山口県で映画制作の準備をされているようで。

三宅:そうです。山口情報芸術センター「YCAM」に長期滞在して、制作をすすめている最中です。メディアアートやバイオ技術のラボとスタッフがいるので、なんだかSF映画みたいな環境です。