11月3日、京都文化博物館において映画『明治侠客伝 三代目襲名』上映後、本作の助監督・鳥居元宏さんと、映画監督の西尾孔志さん によるトークが行われました。
聞き手は、東映京都撮影所の高橋剣さんです。

高橋:鳥居元宏さんは『明治侠客伝 三代目襲名』の助監督ですが、途中で自身の監督作を撮るために抜けられたので、一部の参加になり ます。
西尾孔志さんは、大阪を中心に活躍されてる若手の映画監督です。

西尾:『明治侠客伝 三代目襲名』ひさしぶりの鑑賞です。
画面が格調高いですよね。定型の中に情念がある。
鳥居さんは『緋牡丹博徒 花札勝負』の脚本も書かれたんですよね。
演出や脚本を、加藤監督とどう練っていったのか、教えていただけますか?

鳥居:『明治侠客伝 三代目襲名』の頃の話をします。
当時、フランスでヌーベルバーグが流行っていて、日本にも入ってきたんです。
様々な映画会社が、若い監督の映画を作り始めました。
篠田正浩さん、大島渚さん、中島貞夫さんなどですね。
そこで、私はそれまでにない忍者映画の脚本を書いていました。
『十七人の忍者 大血戦』です。
その仕事を置いておいて、加藤組に参加することになりました。

西尾:それまでに監督と面識はありましたか?

鳥居:撮影の応援に行って、現場で会ったことがあります。
偏屈なおじさんだなと思いました。
テストをやり倒すんです。10回は普通ですね。

西尾:10回! 多いですね。

鳥居:そんなにテストすると、撮影日数が少ないから、決められた日数で終わらないんです。
そこで、予備のB班をたてます。

西尾:東映って、他の監督もB班を使うんですか?

鳥居:いや、普通は、一人の監督が最後まで撮るんですよ。
封切りに間に合わないから、慌ててB班を作ったんです。

西尾:それであのクオリティを保てるのが、信じられないです。
監督 の気に入るよう、B班の心得みたいなものはありましたか?

鳥居:ローアングルで、75mmレンズ。望遠で撮る。通常よく使われる50mmはあまり使わない。
奥行きがあって、人が重なってるシーンが多いからね。
手前の人物にピントを合わせて、奥をぼけさせる。

西尾:仁義を切るシーン、のれん越しに撮っていて、凄く奥行がありますね。

鳥居:仙吉が来るシーンでも、凄く遠くから撮って、手前に物を置いている。
加藤さんの好きそうな構図だよね。

西尾:ああいう画面作りって、凄く手間がかかると思うんですが、スタッフは嫌がらないんですか?
仙吉の初登場シーンなんて、顔が見えないでしょう。

鳥居:照明さんは嫌がりますね。手前から奥まで照らさないといけな いから、ライトが沢山必要で。
助監督である自分も、面倒くさいなって気持ちになりましたね。

西尾:それって、加藤監督はどうやって皆に納得してもらってたんですか?

鳥居:監督はそういう人だからしょうがないって、皆、あきらめてるんですよ。

西尾:スコップを持って穴を掘るのも、しょうがないと。



鳥居:最初から最後まで、加藤監督の作品に参加できたことは無かったような気がしますね。
クランクインしたら、まだやることいっぱい残ってるのに、「はい! 次の台本」って渡されるんです。
あの頃の東映は、むちゃくちゃでしたね。

西尾:事前の打ち合わせでは、忙しすぎて、当時のことをあまり覚えていないとおっしゃってましたね。

鳥居:50年も前で すよ! 当時の私は30歳くらいで、今は82歳ですから。

西尾:明日上映する『緋牡丹博徒 花札勝負』の脚本も鳥居さんなんですよね。
一般的に、脚本の第一稿ができたあたりで、監督が決まるものなんですか?

鳥居:いや、そうとも限らないんですよ。

西尾:冒頭で、太鼓を叩いてるところを真上から見る構図。
そこから、カメラが横から撮る構図になって、神輿が動き始める。
やくざの世界の均衡が崩れる、内容とリンクしていますね。
遠景かアップか、中間がないですよね。

鳥居:お客さんに与える印象を考えてのことですね。アップが多い方がインパクトが大きいでしょう。

西尾:撮影の制約の問題ではないんですね。
中途半端に背景を入れてしまうと、作り込むの が大変だから、アップで行くというものではなく。

鳥居:そもそも、監督には、封切りまでに撮り終わらなければならないという意識はないんです。

西尾:冒頭は、B班の倉田準二さんが撮っていますよね。B班はクレジットに名前が出てきません。
監督って、スタッフと揉めることはあったんですか?

鳥居:監督は、撮影が上手くいかないと、「僕が好きな形になるまで、カメラを回しません!」と言ってそっぽ向くんです。

西尾:大御所にしか許されない発言ですね。僕みたいな若手がやったら、クビが飛びます。
現場はどう思ってたんですか?

鳥居:知るかほっとけですよ(笑)

西尾:でも、誰かが動かないと撮影が止まったままですよね?

鳥居:そこで、制作予定日 数の半分を過ぎたところでB班が入りました。
監督と打ち合わせをすると、「お好きなように撮りなさい」と言う。

西尾:鳥居さんは、B班をやっていて、困ったなということはありましたか?

鳥居:『懲役18年』で野球のシーンを撮りました。
当時、リポビタンDのCMで、王貞治監督が打ったり走ったりしているのがあったんです。
監督は「あれで行って下さい」って言うんですが。
あのCMは、カメラを長時間回しているので、ドケチの東映でそんなことできるわけない。
で、適当に撮ったら、監督に「ダメです」って言われました。

西尾:加藤監督に褒められたことは?



鳥居:私の初監督作品を見た後、加藤監督は「君は、立ち回りは上手い。芝居は、僕の方が上手い」って言ってました。
当たり前だよ(笑)

西尾:負けず嫌いだったんでしょうか?

鳥居:若造に負けてたまるかって思ってたんでしょうね。

西尾:『蒲田行進曲』のことも当時、悪く書いてらっしゃったから、若手への対抗心があったんでしょうか?

鳥居:大映から締め出されて、あちこち渡り歩いて、偏屈になったんでしょう。
東映でも出たり入ったり、定着しなかったです。

私は『明治侠客伝 三代目襲名』の助監督を1週間くらいしかやっていません。
自分の次回作の準備があって、抜けたので。
ヒロインが桃を渡すシーンと、主人公が汽車の上から飛び降りるシーンをやったのは覚えていますね。

西尾:汽車の上から飛び降りるシーンはどうやって撮りました?

鳥居:梅小路公園で撮影したんです。
当時は、高架になってなくて、五条通りのあたりで撮りました。
車を止めないといけないので、大変です。
山陰本線、何時から何時は使えますか?と聞いて、やりました。
飛び込むシーンは、途中からセットなんです。

西尾:汽車が走っていたら、ヌッと鶴田浩二さんが現れる。格調高い画面から、急に話が動いて、驚きますね。

鳥居:編集が上手いんですよ。編集は河合勝巳です。

西尾:鶴田さんが「初枝を、あんたの代わりに田舎に帰したぜ」って、ヤクザに言う。
あの後、余韻も何もなく切る。編集が独特ですね。

二代目が重傷で寝ていて、首実検のために立ち上がる。
カメラが、ずっとフィックスだったのに、そこで上がる。その、間の撮り方 。

ボンが恋人とキスしてる後ろで、遊んでる人がいる。
画面に映っている人、隅々まで色んなドラマがありますね。

鳥居:長回しの方が段取りがいいんです。
テストの回数は増えますが。
台本がどこかに残ってるはずです。今日、持ってこようと思っていましたが、見つかりませんでした。