11月1日、京都文化博物館において、「車夫遊侠伝 喧嘩辰」上映後、映画監督の篠崎誠さんによるトークショーが行われました。
聞き手は、東映京都撮影所の高橋剣さんです。

篠崎:加藤泰監督は「おかしい映画を作りたい。男と女の愛は一方通行である。互いに譲り合わない。それでも互いを求め続ける。この話は、3度、結婚式をあげることになった男女の物語である」とおっしゃってます。

高橋:テンポの良いコメディで、ドライブ感がありますね。

篠崎:映画に出てくる、明治時代の大阪駅はオープンセットなんです。当時はレンガ造りだったんですよ。
美術は井川徳道さん。
全景のセットを作るのは難しいので、改札の内側から撮るというアングルになっています。
それで乗り切ろうとしたんだけど、どうしても、全景が必要なシーンがあって、上の方は書き割り(絵)で作ってます。
段々、日が暮れてくると、絵と空の暗さを合わせるのが難しくなることもありました。
加藤監督は、美術にこだわりがあって、セットがどれも素晴らしいですね。

敵役を演じている大木実さんから話を聞いたのですが、
加藤監督は、1シーンに役者が6人いたら、6回テストする人でした。
1回のテストで、一人しか見ていないんですね。

賭場のシーンでは、エキストラを捕まえて「君は今、勝ってるの? 負けてるの?」と聞いていました。
エキストラ一人一人もおろそかにせず、芝居をつける方でした。

高橋:前半はコメディですね、二人が惚れ合ってるのに、意地を張り合って、なかなかくっつかない。



篠崎:喜美奴役の桜町弘子さんを、橋から落とすシーン。
カメラをさかさまにして撮れば良いんですけど、加藤監督はそういうごまかしが嫌いで、 本当に桜町さんをクレーンでさかさまにつって、撮ってるんです。
監督は何回もテストをする方ですから、桜町さんは裾がめくれて恥ずかしかったそうですけど、監督は一切気にしない。

1カットもないがしろにしない方でした。
人間の動かし方に奥行きがありますね。手前に、人物の一部や、柱を入れたりして。

最初に大阪駅から始まるから、書き割りのセットより、人物に目が行きますね。
特徴的なローアングルで、空ばかりが映っています。

二条駅の近くに引き込み線があって、そこでロケをしました。
貨物列車が通るたびに中断するので、スタッフは大変だったみたいです。

脚本は鈴木則文さん。ラストの橋のシーンは脚本にありません。
セリフがほとんどなくて、霧が立ち込めて、この世じゃないみたいな雰囲気です。
二人が結ばれそうになると邪魔が入る、というお話なので、最後の橋のシーンがないと、決着がつかない。
親分が、二度も好きな女性を取られているのに、最後に、辰を「走れ」って言って送り出すのが良いですね。

高橋:「行け」じゃなくて「走れ」なのが良いですね。辰は車夫ですからね。
加藤監督の作品は、橋が印象的ですね。

篠崎:加藤監督は、子供時代に1か月くらい金沢にいたことがあって、家の隣に、綺麗なお姉さんが住んでいて、川があって橋があったそうです。
橋の向こうには、別の世界が広がってるというイメージは、その時の記憶にあるみたいですね。

高橋:加藤監督はあまりコメディを撮ってないですね。

篠崎:他の作品は、現世では幸せになれない二人の話が多いです。「幕末残酷物語」など。
「車夫遊侠伝 喧嘩辰」は、要所に陰りはあるものの、珍しく明るい話ですね。

高橋:長回しが印象的です。

篠崎:辰が、川に放り込んだ理由を説明している時、喜美奴が手前にぼんやり映っていて、辰が「惚れたんだ」と言った途端に、ハッと表情が変わる。
喜美奴にピントは合ってないんですが、それが分かる。
ダメな監督だと、ピントを合わせたりアップにしたり、もっと説明的にすると思うんです。
編集のことをかなり考えて作りこんでいると思います。

高橋:加藤監督は絵コンテも自分で書く人ですね。

篠崎:でも、何が何でも絵コンテの通りに撮るというわけではなくて、現場で俳優の演技を見ながら、細かな変更も加えて、現場で起こってることを映像に落とし込んで作っていく方でした。



高橋:そうやって作りこむ一方、説明を省く時はスパッと省く方でしたね。
ラストの喧嘩で、草履を踏み外すシーンが入る。落ちる右手をあえて描かない。
観客が映画を読み解ける力があると思ってるから、あえて説明はしない。

篠崎:現代の映画は、あまりにも説明しすぎだと思います。客を馬鹿にしすぎ。
敵役に、妹が抱き着いて、土手をシャーっと滑る。あんなシーン、なかなか思いつかないです。

ただ悲しいシリアス一辺倒じゃなくて、コミカルな要素も少し入れる。
親分の手紙がさかさまになっているシーンは、脚本の鈴木さんのアイデアですが、最後でも果たし状がさかさまになってる。
そういうのが映画の豊かさだと思います。
物語は分かってるんですが、この映画、5~6回は見てますね。

高橋:藤純子さんが綺麗ですよね。

篠崎:この映画が、加藤監督と藤さん、初のお仕事ですね。
監督は、一緒に仕事をする前は、少し心配だったそうですが、実際やってみると惚れこんで、立て続けにお仕事されたそうです。

北島三郎さんが1シーンだけ出て、土手で歌ってますね。
任侠映画で主題歌が流れるのは定番ですが、その走りだと思います。

高橋:前半アップテンポ、後半シリアス。任侠映画の走りだと思います。
「三代目襲名」になると、ますます長回しになって。

篠崎:同じく明治時代を舞台にした「骨までしゃぶる」という遊郭が舞台の作品があって、こちらも桜町弘子さんが出ていますね。
加藤監督の作品の中で「車夫遊侠伝 喧嘩辰」と「骨までしゃぶる」はあまり知られてないんですけど、凄く好きです。
今日の夜、上映する「真田風雲録」は破天荒で最後切ない。

高橋:加藤監督は物語の振り幅が凄い。「真田風雲録」は、ほぼSFですから。
ヒストリカ映画祭では、加藤監督の作品を、この後5本上映しますので、是非、多くの方に見ていただきたいですね。