10月31日(火)、京都文化博物館において、加藤泰監督『瞼の母』が上映されました。
昭和中期に作られた時代劇映画を初めて見た筆者は、役者やスタッフなどの名がエンドロールではなく、TVドラマのオープニングのように先に流れたことが先ず新鮮に感じられました。主役の「中村錦之助」の演技を初めて観ることに加え、脇役の中に「松方弘樹」「中原ひとみ」「赤木春恵」「河原崎長一郎」といった、筆者が子どもの頃からTVでよく見かけた俳優さんのお名前を発見したこともうれしく、これらの名優がどのような役柄で登場するのだろうかと、期待が膨らむ中で上映が始まりました。

物語の舞台は江戸なので、当然言葉はべらんめえ口調。加えて任侠もの特有の表現もあり、難しい言い回しは英語字幕が逆に頼りになる場面もありました。『水戸黄門』や大河ドラマなどは随分と平易な言い回しに工夫されているのだと感じました。物語自体は典型的な人情ものでしたが、登場人物の演技の素晴らしさやロケかと見紛うセットの作り込みの見事さに圧倒された80分間でした。
上映後、殺陣師の菅原俊夫さんが涙にむせながら登壇され、トークショーが始まりました。聞き手は高橋剣さん(京都ヒストリカ国際映画祭実行委員会)です。



■加藤泰監督の思い出
菅原:「この映画に出演していた懐かしい人達がほとんどこの世にいないことを思うと泣けてきました。加藤泰監督は僕の恩人です。1シーン1カットの説得力は加藤監督の財産であり、俳優さんもみなそれに応えられる素晴らしい方々ばかりでした。
加藤組はセットに入るとまず穴を掘り、カメラを下げてローアングルから撮影していました。“ローアングルの加藤組”として有名でしたね。俯瞰から撮ると人間の感情は伝わってこない、下からあおるように撮ると感情が伝わる、というのが監督の持論でした。また、長回し・アフレコなしの現場録音にこだわっていましたね。」 高橋:「スタッフワークの美しさも際立っていますね。リハーサルを丁寧にされていたと聞きますが。」
菅原:「9時にセットに入り、エキストラも含め全員の動きを完璧に指導してリハーサルし、やっとカメラを回し始めるのが17時、ということはよくありました。全てのスタッフが一丸となって撮影に取り組んでいました。」

■名優たちの演技
菅原:「僕は一時期錦之助さんの付き人をやっていたことがあります。立派な役者さんは今も大勢いらっしゃるけれど、錦之助を超える俳優はいないのではないかと僕は思っています。ヤクザ・剣豪・近松作品の町人などそれぞれの役柄になりきって演じ分けられる人はそうはいない。台詞を一言も噛まず、全てのシーンで台本を一切開かない。なぜそんなことができるのだろうと思ったのですが、彼は台詞を全て紙に書き出して、応接間・寝室・風呂場にまで貼っていたのです。」
高橋:「錦之助さん以外にも名優の演技が光ります。若い松方弘樹さんも出ておられます。」
菅原:「浪花千栄子さん、星十郎さんのシーンもすばらしい。木暮実千代さんと錦之助さんのシーンなどもほとんど長回し。あれだけの長台詞を情感たっぷりに演じきれる俳優さんはいません。今回高橋さんが『瞼の母』を選んで上映してくださって本当にうれしく思っています。近いうちに天国に行ったら錦之助さんに報告するよ。
若い俳優さんやスタッフたちも、古い映画と片付けず、映画を見て基本とは何かを先輩たちの姿に学んでほしい。好まないものも見てほしい。」
高橋:「時代劇は古い作品ですが、現代劇と違って古びないですから。」

筆者も、浪花千栄子さん演じる盲目の老女のあまりにも自然な演技に心打たれ、錦之助さん演じる忠太郎が、やっと逢えた母からの冷たい仕打ちに全身を震わせながら思いの丈をぶつけるシーンに涙しました。
(ボランティアレポーター おはらかほる)